マレーシアから見た日本 TOPICS

マレーシアから見た日本

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投稿者:陸培春(ルー・ペイ・チュン)

「地球儀を俯瞰する外交」の幻想

G7首脳会議、APEC(アジア太平洋経済協力会議)、ASEAN+3(東南アジア諸国連合+日中韓)首脳会議、国連気候変動枠組条約締約国会議が各地で続けて開催された。連日政府専用機で世界を飛び回る安倍首相の忙しさは国会審議にも取り合わないほどで、国内外の重要法案の論戦を求める野党を手持ち無沙汰にさせている。

本コラム集の表紙

2006年、安倍は52歳で首相の座に登り詰め、初の戦後生まれの最も若い首相となった。彼は若くして首相となり、経験は乏しかったが、歴代の首相と異なり大きな野望を懐き、名宰相となって後世に名を残そうと誓いを立てた`。それゆえ、通常政治的業績にプラスとなる外交では困難な仕事でも積極的に取り組んだ。

2012年、第二次安倍内閣の成立後、安倍は自ら世界を飛び回り、月平均一カ国を訪れ、訪問国はこれまで60カ国近くに及んでいる。これほど外交好きな首相のもとで働く岸田文雄外相は哀れで、脚光を浴びる場面は奪われ、名ばかりの外相となってしまい、むしろ安倍首相兼外相としてしまった方がよく、またそうすれば哀れな岸田を救えるとあざ笑う者すらいる。

現在のところ、地球儀を俯瞰する外交は、反中連合を積極的に築く「中国封じ込め外交」を特徴としており、反共色の強い「価値観外交」と補完し合って進められている。こうした大戦略のもと、安倍は中国の周辺国を懸命に引き入れ、大国では例えばインドとオーストラリアを、小国ではベトナム、ミャンマー、フィリピンを、遠くの国では南スーダン等アフリカ諸国まで仲間に引き入れようとしている。

阿部は5月9日、訪日した中国の李克強首相と会談したが  ニューズウィーク2018年6月19日号より

中国が接近する国には日本は必ず外交攻勢をかけている。さらに露骨なのは、安倍は「敵の敵は友」という術に長けており、現在中国と関係が悪化しているベトナム、フィリピン等の国に秋波を送り、秘かに行動して機先を制し、中国を狼狽させ窮地に追い込んでいる。

加えて彼は札束攻勢をかけるのに長けており、あたかも福の神のように受益国を次々とその懐に迎え入れ、多くの成果を得ている。先日、安倍は中国の隣国ミャンマーを訪れ、同国が抱える1760億円にのぼる巨額の負債(遅延損害金)が焦げ付き、なんとそれをすべて棒引きにしたのだ!1970年代、中国が戦後賠償を放棄した後、日本が同国に提供した円借款でも一年あたり500億円は超えず、かつ大部分は返済する必要があったのだ。ミャンマーの借金棒引きは1000億円以上であり、一年あたりの対中援助額の3倍に匹敵し、これは明らかに少額ではない!

これは出血大サービスに他ならず、日本の次世代の血税を独りよがりの外交のために使っている。安倍はサンタクロースより大盤振る舞いで気前よくカネをばら撒いているが、その狙いは何なのか?「その心は誰の目にも明らかである」と言えよう。

ニューズウィーク日本版 2018年6月19日号

問題は、日本はなお世界三位の経済大国ではあるが、すでに世界で最も豊かな国ではなく国家債務は1167兆円に達し、何もわからない乳児も含めて国民一人平均832万円の負債を抱えていることにある。多くの日本人は多額の国債発行によって年金がもらえないのではないかと案じている。日本の状況はいつ破産してもおかしくないギリシャよりも深刻だが、日本人はなお自民保守政権を信任しており、幸運にも「信用危機」も、銀行に人だかりができるような取り付け騒ぎも起こっていない。

日本は自国自身が危うく他国を助けている余裕はないのに見栄を張って他人の金で大盤振る舞いをするべきではない。換言すれば、慈善王となってあちこちで散財する資格は安倍にはないのである。彼は自分が利益を得るとともに「地球儀外交」に箔をつけるために、予算の無駄遣いもいとわず、国民の債務負担をさらに重くしている。国民から見れば、このような反中色が強く虚栄に満ちた「金銭外交」は無用である。日本の民衆は期せずして日本政府のカモとなってしまっているが、これは本当に馬鹿馬鹿しいことである。

仮に安倍は日本人が得意とする発想転換をすれば、近くの国を捨てて遠くの国を求める「反中大合唱」はまったく必要なく、世界大同をたやすく実現し、皆が利益を得るのである。中国経済はすでに下り坂で、経済大国日本の経済支援と投資を必要としており、それによって現在の苦境を乗り越えることができる。

日本もまた同様に苦境にあり状況はいまひとつで、中国の市場と労働力を必要としている。両国は元来甲乙つけ難く、互いを大切にしてウィンウィンの関係を持っていたのだが、某人物の人為的な原因によって仇敵となり、相互にまったく往来がなくなってしまった。両国間には戦争観の相違と歴史観の相違という慢性病が存在するが、そうなったのには理由があるのだ。

戦後70年、なお日中間に残るこの二大課題は人びとを不機嫌にさせ、言い争いは果てしなく、両国の人びとの一大不幸となっているが、これは日中両国の為政者の努力不足と思考停止が招いた結果である。安倍は真剣に被害国中国の要求を聞いて、慢性病の症状に効く薬を投与し、いっときの苦労で永遠にこの問題を解決すべきである。取り組むべき課題を避けて言を左右にし、時間を浪費し、次の世代の精神的な負担を増やすべきではない。

安倍は「地球儀を俯瞰する外交」ないしは「脱亜入欧(米)」外交に自己陶酔し、常に高望みをして現実から目を背け、至る所で策を弄び誇らしげに顕示するといった無用なことをすべきではない。一国の主として地に足をつけて冷徹な現実を直視すべきであり、可能な限り速やかに中韓両国と戦争観と歴史観で共通認識を得るべきである。

中韓両国を排除すれば、両国の指導者と誠意をもって膝を交えて話し合うこともできない。そうなれば「地球儀を俯瞰する外交」は「欠陥外交」となり、日本は孤立状態に陥るのではなかろうか。

2015年12月12日『南洋商報』言論版

 

投稿者:陸培春(ルー・ペイ・チュン)

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